代表理事 挨拶

JESAの目指す救急救命士の将来像~次のデジタル時代を担う救急救命士の育成に向けて~

代表理事からのメッセージ

このたび理事会で代表理事に選出いただきました田中秀治です。

JESAという救急救命士教育界において最大の組織を今後2年間けん引する役割をいただきました。あらためて御礼申し上げます。

新たな理事役員の、JESAを構成する各学校の教員のみなさまと手を携えてJESAの発展を図っていきたいと思います。

今日はJESAの現状と進むべき基本的目標を提示させていただきます。

 

1. 救急医療体制の将来予想

 JESAは平成8年に民間救急救命士養成施設の数団体が中心となって産声を上げました。以来30年近くが経過し令和6年3月に卒業生を輩出したJESA加盟施設は39施設となり、更に新規設立校を含めると、現在44施設が加盟しています。いまや消防を含む公的機関で育成する救急救命士育成施設数を凌ぎ、この業界における最大組織となりました。そして、その結果、令和6年3月の国家試験では民間養成救急救命士校の合格者数は1,959名と国家資格取得した全救急救命士数の62%を占めました(公的機関の同年国家試験合格者数は1,176名)。いまやJESAは日本の救急救命士養成の主軸を担うまでになったといえましょう。それゆえ今後の育成する救急救命士の質の向上に専心しなければなりません。

 

  令和64月現在、救急救命士有資格は7万人を超え、全国救急車への充足率は99%を超えます。救急救命士は救急車に必ず1名は乗車していることになりました。量的充足は到達されたといえますが、今後は質的充足の時代に入りました。救急救命士の活躍は消防機関にとどまらず警察・海上保安庁や自衛隊など法的執行機関にも、民間医療機関にも救急救命士が採用されるようになってまいりました。しかし、総務省が推定する救急需要の予測では高齢化による救急搬送の増加はあと10年続いていくことが予想されています。公務員としての消防はこれを見据えて採用職員を減らすことはあれ、局地的なイベント(万博やオリンピックなど)を除き増員はほとんど見込めないといってよいでしょう。高齢者人口が減少するまでの、この1015年は民間の力をかりてでも救急医療体制を維持していくべきです。私が予想するには軽症の救急搬送を民間搬送業者に委託する流れができてくるのではないかと考えています。

そこで必要になるのが国家資格を有する救急救命士となります。今後民間搬送業における教育や制度整備などが強く注目され実施されていくと思います。そこにJESA卒業の救急救命士が活躍する余地があると思っています。

 

2.JESA組織の強靭化

このような将来像のもと、JESAも停滞することなく、その形を時代に合わせて変えていく必要があります。与えられた役割の重要性に鑑み、今まで以上に柔軟で強固な組織に生まれかわる必要があります。

 その基本が1.教員の資質向上 2.救急救命士学生を教育する体制の質の担保 3.学生教育の支援です。そのために、これまでの3部会を整理・一部統合し、 1.学生研修部会 2.教員研修部会 3.総務・広報部会の再編を行いました。組織としての判断を迅速化し、理事会などで決定した事項を、全校に速やかに伝達し、全理事により統括責任体制を明確に進めていくためです。また理事の中から、各委員会の担当理事を指名し、理事会組織と各種委員会の風通しを改善し、組織の強靭化を図っていきたいと思います。これ以外にも、救急救命士の社会的認知の向上や救急救命士の国際化などの課題に取り組みたいと思います。

 

今後は、所属地域を、北日本:北海道・東北、東日本:関東・甲信越 西日本:北陸・近畿・東海、中四国、南日本:九州・沖縄の4ブロック化を活発にしていきたいと思います。

 

3. デジタルリテラシーを有する救急救命士学生の育成

 

まず、JESAが救急救命士を育成する目的は、「法的執行機関(消防・警察・海上保安庁・自衛隊)や医療機関に求められるような良質で優秀な救急救命士を輩出しつづけること」です。身体と心が健常で、消防機関の厳しい業務やDX化などに対応できるやわらかい頭、これからの救急救命士にはデジタルリテラシーも求められるようになってきています。

この目標を達成するため各JESA会員校は学生とともに知識の習得や技術の習得に切磋琢磨し高い救急救命技術と、確かな医学的知識に裏付けされた学生を養成し、救急救命士学生の就職率改善・国家試験の合格率を高めることに全力を注いでいただきたいと思います。地域によって教育格差が起きないように JESAの総力を挙げて、DX化を推進いたします。その1つがWebを活用した国家試験学習(e-learning)です。場所や時間を問わず救急救命士の必須知識である救急救命士テキストでの指導内容を閲覧し学びを提供します。またチームシミュレーションやVR(仮想現実)を用いた演習などを先進的な実技実習を取りいれ学校間の技術・知識の均一化を図ります。

 

4. 病院前救急医療体制(EMS)の中核を担う組織体として安全で安心な社会へむけた提言

 

JESAはこれまでも、全国MC協議会・JPTEC協議会・日本臨床救急医学会・各種検討会はもとより、日本臨床救急医学会や国の救急救命士にかかわる委員会、法改正や処置拡大に関する会議体・救急救命士国家試験委員の委嘱、救急救命士国家試験の在り方委員会など、救急救命士を育成する団体として常に所管官庁や政府と密な連絡をとり、救急救命士をめぐる諸問題に臨機応変に対応してまいります。

現在も、救急救命士の処置範囲の拡大や職域の拡大の場に救急救命士の支援する議員連盟と連携して政府に意見を述べるほか、民間のMC組織である民間救急救命士統括体制認定機構と連携し生涯教育の認定などに尽力しています。これらの努力の結果、2022年の救急救命士法改正に至りました。しかし次の法改正ではさらなる場の拡大(対象の制限や場の制限をなくす)や、2024年に発足した日本救急救命士会と立場は違っても、救急救命士の質の向上という同じ目的を有する組織として手を取り合いながら、救急救命士の社会的地位向上を目指します。

今後ますます現場でニーズが高まる民間救急救命士には、無限なる可能性があります。そのため、官民問わず活躍する必要があります。民間救急救命士の認定・再教育体制を整備しました。より効果的な病院前救急医療体制を構築するプロセスの中でJESAの果たす役割が高まってきています。 

 

5. 救急救命士教員の指導能力向上と生涯教育の確保

救急救命士学生を指導するJESA教員も、自らの指導力レベルアップを図るための教員研修の組織としても存在したいと思います。救急救命士教育を行う者にもプロフェッショナルオートノミーを醸成し、認定制度を継続的な教育の根幹として、教育者としての学びの機会を提供していきます。さらに一定のレベルに達している教員をJESA認定教員として認定し指導レベルの向上を図ります。また、民間に所属する救急救命士として民間救急救命士を認定する病院前救護統括体制認定機構と連動して資格認定(統括医師・認定救急救命士)・施設認定を行い、質の担保を継続的に実施します。これらの活動をJESAはサポートいたします。すべてが救急救命士の社会的地位向上に結び付くからです。

 

6.  国際化にも対応できる救急救命士として

救急救命士の世界は日本だけの問題ではありません。日本救急救命士会と共同し救急救命士の世界に目を向け、米国のNAEMTやヨーロッパの救急救命士が活躍している各国、アジアのEMSASIAなどの機関団体と連絡・連携をとり国際化の波にのりおくれないようにしなければなりません。アジアの人口はやがて世界の50%を超えることとなります。国外にも目を向け、世界に飛び立つ救急救命士も育成していかなければなりません。その意味でも国内だけに目を向けるのでなく、救急救命士教育の国際的スタンダードについてもいち早く対応する必要があります。

 

7. 救急救命士の社会的地位の向上

 公的組織の救急救命士採用拡大とともに、民間においても公的機関を退職した救急救命士の活用が始まり、民間警備会

社への採用、3次病院でのERやドクターカー運行・2次病院ERや病院救急車での病院間搬送、地域包括医療下での活動、

警備会社、民間搬送会社での活動、マスギャザリングイベントやアミューズメントパークにおいてJESA卒業生の救急救

命士が活用されています。 

2021年に開かれた東京オリンピック・パラリンピックなどでも活躍をみせた救急救命士の存在が期待されています。2025年の万博での救護救急体制の確立、病院船などの新しい取り組み、様々なスポーツやマスギャザリンクイベントをサポートすることもJESAに期待される役割となってきています。

2022年の救急救命士法改正は法施行から30年経過してやっと叶った法改正でした。ここで起きた職域拡大の波は確実に次の10年で日本の救急医療体制に大きな影響を与えていくと思います。日本の救急医療が今後どのような方向に進むかよく見極めて柔軟に対応していかなければなりません。とくにJESA構成員のみなさまと、よい救急救命士を育成できるように、どうぞよろしく願いたします。

また人口の高齢化とともに顕在化している救急医療体制の救急救命士への社会のニーズの変化によって職域や活動範囲が変容してきております。高齢者人口が減少するまでの、この1015年は民間の力をかりてでも救急医療体制を維持していくようになります。そして軽症や中等症の医療機関までの救急搬送を民間搬送業者に託する時期がやってくるのではないかと考えています。

そこで必要になるのが国家資格を有する救急救命士です。今後JESAでは民間搬送業における教育や制度整備などに注視しつつ行きたいと思います。30年前に制定された救急救命士制度は社会のために救急救命士になにができるのかといった課題を突き付けられていると思います。日本社会において救急救命士の社会進出をはかり、その役割、特性をより理解していただく第一歩であると理解しています。

 

おわりに

これまで私が述べてきた上記の方針は、今後もさらなる議論を理事会・社員総会でおこないつつ、新しい問題に迅速に対処するとともに、できるだけWEB会議を活用して低コスト・高密度のコミュニケーションで解決を図っていきたいと思います。20242025年はまず上記の7点に焦点を絞りJESA事業を展開したいと考えております。またWEBページやSNSなどを活用しJESAを広く社会にアピールしていきたいと思います。

しかし、これらJESAの果たすべき責を握る鍵は会員校の絆です。 JESAの成長は会員校の成長と連動します。日本の救急救命士教育の発展と成熟に貢献していくためにも理事会を代表して、あらためて、JESA会員の皆様のご理解とご支援を願う次第です。 

 

令和6年9月吉日  

 

JESA 代表理事 田中 秀治

国士館大学大学院 救急システム研究科 研究科長